１６．人が集まる家 [中学生時代]
家にはその広さや場所に関係なく、人が集まる家とそうでない家とがあるようで、松本の実家も客の絶えない家でしたが、この明石の住まいも息子の友だちの格好のたまり場となっています。
バレーボール部の練習が昼過ぎで終わる日曜日。
帰って来た息子が遅い昼食をとっていると、まるでお約束のように電話が鳴り始めます。
休日の昼日中にかかってくる無粋な電話は、まず息子宛ての電話に間違いありません。
受話器から聞こえてくる抑揚のない早口は、案の定同じ部の仲良しでした。
電話を代わった息子に向かって「今日遊べる？」と聞いているようです。
口を受話器に当てたままの息子が
「お母さん、そういう訳で今日遊んでいい？」
と聞いてきます。
これもいつもの事。
「６時に解散だよ」
と答えると、調子よく「オーケー」と受けながら、
「遊べる！すぐ来て！」
ということになり、その後また別の仲間から電話が来たり、息子から誘いをかけたりして、４、５人の友だちが集まって来るのです。
最近では親の印象をよくしようと計らってか、息子は仲間に宿題を持って来るよう指示しています。家に集まるのは皆で勉強するのが目的で、勉強の合間の気分転換にちょっとゲームでもしようか、という訳です。
気分転換の時間が長過ぎることは言うまでもありませんが、心底可笑しそうに笑い合うガラガラ声は、厄介な年頃に突入しようとする彼らの精神的安定を示しているようで、まあいいか、と黙認しているうちに、お別れの時間はすぐにやってきます。
しかし、約束の解散時間もまた守られたためしがありません。
「もう６時だよ」
「暗いよ」
「みんなお母さんが心配してるよ」
この理性ある呼びかけに腰を上げる者はなく、次第に声を荒げる呼びかけを何度か繰り返したあげく、約束の時間を１時間以上も過ぎて、ようやく解散となります。
子供たちは皆、真冬の暗く凍てついた道を、無灯火の危険な自転車にまたがり、それぞれの家へと帰って行くのです。
締めきりの迫った仕事を抱えたある休日、たまには友だちの家へ遊びに行ったらどうだと、息子に提案してみたことがありました。
いつもの仲間からの電話に向かってしばらく押し問答していた息子は、私を見て恐る恐るこう言いました。
「○○君とこは今日お母さんが家にいるからだめだって。やっぱりウチで遊んでいい？」
庭付きの広い一軒家に暮らしながらお母さんが家にいると友だちを呼べない家があり、かたや狭いアパートにお母さんどころかお父さんや犬までいるというのに毎週のように友だちの集まる家がある…、まったくこれは不思議な現象ではありませんか。
息子を責めたところでお門違いだとわかってはいながら、それでも一通りの文句を並べた後で、実家の両親がよく口にしていた台詞を思い出しました。
「きれいな家でも誰も訪ねて来ないような家は寂しい。散らかった狭い家でも人が訪ねてくれるってのは有難いことだわ」
その後もお客さんはやって来ます。
中には犬が大の苦手だったり、家が非常に遠かったりする子もいて、何も無理して来なくてもいいのにと思う一方で、そこまでして遊びに来るその子たちがいじらしくもあり、この両極端の気持ちの間で揺れ動く私としては、とりあえず”寒い中、ご苦労様だね”という心境で、穏やかに彼らを迎え入れようと努めています。
☆今では訪ねる人もなく、家は朽ち果てています。
バレーボール部の練習が昼過ぎで終わる日曜日。
帰って来た息子が遅い昼食をとっていると、まるでお約束のように電話が鳴り始めます。
休日の昼日中にかかってくる無粋な電話は、まず息子宛ての電話に間違いありません。
受話器から聞こえてくる抑揚のない早口は、案の定同じ部の仲良しでした。
電話を代わった息子に向かって「今日遊べる？」と聞いているようです。
口を受話器に当てたままの息子が
「お母さん、そういう訳で今日遊んでいい？」
と聞いてきます。
これもいつもの事。
「６時に解散だよ」
と答えると、調子よく「オーケー」と受けながら、
「遊べる！すぐ来て！」
ということになり、その後また別の仲間から電話が来たり、息子から誘いをかけたりして、４、５人の友だちが集まって来るのです。
最近では親の印象をよくしようと計らってか、息子は仲間に宿題を持って来るよう指示しています。家に集まるのは皆で勉強するのが目的で、勉強の合間の気分転換にちょっとゲームでもしようか、という訳です。
気分転換の時間が長過ぎることは言うまでもありませんが、心底可笑しそうに笑い合うガラガラ声は、厄介な年頃に突入しようとする彼らの精神的安定を示しているようで、まあいいか、と黙認しているうちに、お別れの時間はすぐにやってきます。
しかし、約束の解散時間もまた守られたためしがありません。
「もう６時だよ」
「暗いよ」
「みんなお母さんが心配してるよ」
この理性ある呼びかけに腰を上げる者はなく、次第に声を荒げる呼びかけを何度か繰り返したあげく、約束の時間を１時間以上も過ぎて、ようやく解散となります。
子供たちは皆、真冬の暗く凍てついた道を、無灯火の危険な自転車にまたがり、それぞれの家へと帰って行くのです。
締めきりの迫った仕事を抱えたある休日、たまには友だちの家へ遊びに行ったらどうだと、息子に提案してみたことがありました。
いつもの仲間からの電話に向かってしばらく押し問答していた息子は、私を見て恐る恐るこう言いました。
「○○君とこは今日お母さんが家にいるからだめだって。やっぱりウチで遊んでいい？」
庭付きの広い一軒家に暮らしながらお母さんが家にいると友だちを呼べない家があり、かたや狭いアパートにお母さんどころかお父さんや犬までいるというのに毎週のように友だちの集まる家がある…、まったくこれは不思議な現象ではありませんか。
息子を責めたところでお門違いだとわかってはいながら、それでも一通りの文句を並べた後で、実家の両親がよく口にしていた台詞を思い出しました。
「きれいな家でも誰も訪ねて来ないような家は寂しい。散らかった狭い家でも人が訪ねてくれるってのは有難いことだわ」
その後もお客さんはやって来ます。
中には犬が大の苦手だったり、家が非常に遠かったりする子もいて、何も無理して来なくてもいいのにと思う一方で、そこまでして遊びに来るその子たちがいじらしくもあり、この両極端の気持ちの間で揺れ動く私としては、とりあえず”寒い中、ご苦労様だね”という心境で、穏やかに彼らを迎え入れようと努めています。
☆今では訪ねる人もなく、家は朽ち果てています。
タグ：客
2008-12-12 23:36
nice!(1)
コメント(4)
トラックバック(0)
ヒトが集まる家って、家の広さや片付いている部屋ではないのだと、私も痛感しています。
私の実家は狭くて、とてもキレイとは言えませんが、母の友達がよく集まる家で、私の友達が来た際は、どのヒトが私の母なのか迷われるほどでした（笑）
居心地の良いお宅は、その住人がかもし出している雰囲気なんでしょうね。
「お母さんが居るから、今日はダメ！」って、私が子供の頃は逆に、「お母さんが留守だからダメ」でしたけどね…最近の事情も変わってきてますね(;^_^A アセアセ
by いいたん (2008-12-13 18:44)
☆いいたんさん、
まあ！いいたんさん！niceとコメント、ありがとうございます～！
昔、私もいいたんさんのお母さんにお目にかかった事ありますが、情が厚くてとっても温かい雰囲気で、初めてお会いしたような気がしませんでした。お友達がたくさん集まる理由がわかります。
「お母さんがいるからダメ」は、たしかに逆ですよねぇ（笑）
by Duarte (2008-12-14 13:45)
「お母さんがいるからダメ」っていうのは、あまり聞かないですね（笑）
(お父さんじゃないんですかね？)
我が家も、息子が小学生の頃は、よく息子の友達や近所の子供が遅くまで遊んでいて、帰ってもらうのに苦労したものですが、最近は友達はおろか、子供本人さえ、殆どいません・・・。
子供が成長してみると、めったに来客のいない我が家。
私って、友達いないんだわ、とつくづくわが半生を反省する？今日この頃でございます。
Duarteさん、こちらに遊びにこられませんかぁ？？？
by Goldenwest (2008-12-14 22:35)
☆Goldenwestさん、
お子さん方も外の時間の方が長くなってきたんですねぇ。
うちも子供が巣立ってからは人間のお客さんはめったになく、犬も寝たきりで吠えることもなく、節電の暗がりを時折猫が見え隠れするだけで、ホラーハウスのようです。
Goldenwestさん、ほんとにお会いしたいですねぇ。
お正月は京都に来られませんか？
by Duarte (2008-12-16 00:18)