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25.新学期の憂い [中学生時代]

 この春、一人息子もついに中学3年生になりました。
 4月に集中する授業参観や家庭訪問も、今年で最後かと思うと力が入ります。

 毎年クラス替えがある息子の学校では、そのたび担任の先生も替わります。今年の息子の担任は、落ち着いたバリトンがよく響く、私たちと同年代の音楽教師でした。

 先生の授業は、前半がビデオを使った勧進帳の概説、後半がグランドピアノの周りに生徒を集めて一緒に春の歌を歌うという楽しいものでした。

 ところが前半、たいていの生徒が熱心にビデオを見つめる中で、茶髪の3人組だけが、そのビデオの音量を上回る嬌声を発して騒いでいます。
 先生は生徒の間を巡回しながら
「しっかり聴いてるか~」
と声をかけますが、3人組は
「はあ?何を?」
といった調子で聞く耳持たず。

「先生、もっと叱れ」
参観の親があちこちでささやく中、私も3人組の後ろから”やかましい”と言ってやろうかといったん腰を浮かせましたが、いちばん前の席で背筋を伸ばしている我が息子にその報復がいくに違いないと思うと、情けないことに手も足も口も出ません。

 後半は、先生の見事なピアノ伴奏と素晴らしい歌声にさすがの嬌声も消え失せたものの、これから始まるこのクラスの1年を思うと、暗澹たる気持ちになるのでした。

 ところが、帰宅した息子に、あの3人組は何だ、という話をすると、彼らは実はいい奴なんだと言うではありませんか!

 息子の言う”いい奴”とは、裏表のない奴、”悪い奴”とは、人前ではいい奴に見せて陰で悪さをする奴。

 つまり授業中、公衆の面前で騒ぐような奴は”いい奴”なのです。
 しかし、”いい奴”にはなるべくなら授業も妨害しない”もっといい奴”になってほしい、そう願うのは私ばかりではありません。息子とて願いは同じ。
「あいつらに注意したらよかったのに。お母さん対3人組の対決は見たかった」
対決には肯定的です。
 息子がそう言うなら、次回はぜひ。しかしその時は、誰の母親やら祖母やらわからぬように、やはり変装して行くことにしましょう。

 家庭訪問ではそんな話題から入って進路の話で締めくくろうか、と考えつつ、今年もまた嵐のような大掃除をする時期がやって来たことを悟ります。
 今年は多忙で大掃除に当てられるのは家庭訪問当日の午前中のみ。
 
 ところが、仕事の都合で訪問日程を延期してもらったはずなのに、先生はそれを忘れて当初の予定通り、大掃除前の我が家の呼び鈴を鳴らしたのでした。
 
 しかしその日、誰もいなければ先生はすぐに間違いに気づき、何事も起こらなかったはずです。
 よりによって風邪で仕事を休んだ夫が一人在宅していたのが運の尽きでした。今日父親がいるというのに、まさか明日わざわざもう一度先生にお越し頂く訳にもいかず、まるでやもめ暮らしのように散らかり尽くした部屋の中で、鳩が豆鉄砲を食らった体(てい)の夫相手に、先生は進路の話題にも触れず、夫と一緒に留守番していた犬と猫についての感想を述べただけで去って行かれたのでした。

 家庭訪問というと毎年家中をひっくり返して大掃除を始める私に、家人は”自然体でいけ”と言い続けてきましたが、記念すべき最後の家庭訪問に期せずして自然体をさらけ出す結果となりました。
 すっかり気が抜けた私には、当分茶髪の3人組と対決する気力もありません。

080913atMatsumoto009.JPG
天皇陛下の落雁

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