22.生徒会長選~その2~ [中学生時代]
息子の中学校では次期生徒会長の座を巡って、4名の候補者が壮絶な選挙戦を繰り広げていました。
選挙運動最終日には、いよいよ全校生徒を前にして各候補者の演説と推薦責任者の応援演説の会が行われます。これまで独自のやり方でアピールを続けてきた彼らですが、この日の演説原稿には担任の先生の入念なチェックが入りました。
息子はアメリカの学校で鍛えられたおかげか、生まれつきそうなのか、人前で話すことだけは得意です。演説ではその点を強調することにしました。
ところが、先生のチェックを受けて書き直したという原稿の第一文は、「ぼくは人前で自分の意見を述べることが得意ではありません。」と、いったい誰のことだという内容に変わっていたのでした。
「もっと謙虚な態度でないと印象が悪くなる」とは先生の弁ですが、唯一の取りえを自ら否定してしまってはあとが続きません。しかも、演説にはもってこいのマイクいらずの大声で、壇上から朗々と「ぼくは人前でしゃべることが苦手だ」などと、それはむしろ嫌味というものです。
しかし息子は、この実に謙虚な原稿を、その内容に合わせて実に神妙な態度で口演したそうです。
そして、「一見、彼は何の変哲もない男ですが…」で始まる推薦責任者の応援演説は、もともとたった5行しかなかった原稿に先生がかなり手を加えたとはいうものの、きわめて簡潔、聴衆には大いにうけたようです。
こうして激しい選挙戦は幕を閉じました。
投票日の放課後、候補者には一足先に選挙結果が知らされます。
晴れて生徒会長に当選したのは、別のクラスの男子。成績学年トップでサッカー部のキャプテンという絵に描いたような優等生でした。
息子は力及ばず、副生徒会長にとどまりました。
勉強すると熱を出す、バレーボール部万年補欠の息子が、全校生徒千人からなる中学校の生徒会執行部に入っただけでも心から褒めてやりたいところですが、本人には妙な自信があっただけに、落選結果をどんな気持ちで聞いたかと思うと、さすがにかける言葉が見つかりません。
抜け殻と化して帰って来た息子を励まそうと一緒に買い物に出かけたものの、買ったものをそっくり店に置き忘れてくるマヌケな母親に振り回されて、息子の疲労はピークに達したのでした。
翌日、息子は寝込みました。
ひたすら眠り続けた1日が終わったところで、彼なりに心を切り替えたのでしょう。
「生徒会長選では負けたが、勉強では勝つ!」と、にわかに一念発起。
そうなれば、名残の演説原稿やたすきは目障りなだけ。
あちこちに散らかした選挙戦の残骸を片付ける中、手書きの自己アピールがふと私の手を止めました。
息子らしいインパクトのある言葉が韻を踏んで並んだ構成の最後にきて、力が抜けるような結びの文句。
「こんなぼくに、どうぞ皆さんの清き一栗(いちくり)をお願いします」
この親にしてこの子あり。
間が抜けた一族には、人の上に立つよりも何かもっと他に適した役割があるに違いありません。
万が一、あのお祭り気分のまま当選してしまったら、先へ行ってきっと痛い目に遭っていたことでしょう。
しかし、その時はまたその時、たまにはこんな子が生徒会長でも面白かっただろうにと、なかなか心の切り替えができない私は、そんなことを想像しては1人ほくそ笑む、愚かな母親です。
選挙運動最終日には、いよいよ全校生徒を前にして各候補者の演説と推薦責任者の応援演説の会が行われます。これまで独自のやり方でアピールを続けてきた彼らですが、この日の演説原稿には担任の先生の入念なチェックが入りました。
息子はアメリカの学校で鍛えられたおかげか、生まれつきそうなのか、人前で話すことだけは得意です。演説ではその点を強調することにしました。
ところが、先生のチェックを受けて書き直したという原稿の第一文は、「ぼくは人前で自分の意見を述べることが得意ではありません。」と、いったい誰のことだという内容に変わっていたのでした。
「もっと謙虚な態度でないと印象が悪くなる」とは先生の弁ですが、唯一の取りえを自ら否定してしまってはあとが続きません。しかも、演説にはもってこいのマイクいらずの大声で、壇上から朗々と「ぼくは人前でしゃべることが苦手だ」などと、それはむしろ嫌味というものです。
しかし息子は、この実に謙虚な原稿を、その内容に合わせて実に神妙な態度で口演したそうです。
そして、「一見、彼は何の変哲もない男ですが…」で始まる推薦責任者の応援演説は、もともとたった5行しかなかった原稿に先生がかなり手を加えたとはいうものの、きわめて簡潔、聴衆には大いにうけたようです。
こうして激しい選挙戦は幕を閉じました。
投票日の放課後、候補者には一足先に選挙結果が知らされます。
晴れて生徒会長に当選したのは、別のクラスの男子。成績学年トップでサッカー部のキャプテンという絵に描いたような優等生でした。
息子は力及ばず、副生徒会長にとどまりました。
勉強すると熱を出す、バレーボール部万年補欠の息子が、全校生徒千人からなる中学校の生徒会執行部に入っただけでも心から褒めてやりたいところですが、本人には妙な自信があっただけに、落選結果をどんな気持ちで聞いたかと思うと、さすがにかける言葉が見つかりません。
抜け殻と化して帰って来た息子を励まそうと一緒に買い物に出かけたものの、買ったものをそっくり店に置き忘れてくるマヌケな母親に振り回されて、息子の疲労はピークに達したのでした。
翌日、息子は寝込みました。
ひたすら眠り続けた1日が終わったところで、彼なりに心を切り替えたのでしょう。
「生徒会長選では負けたが、勉強では勝つ!」と、にわかに一念発起。
そうなれば、名残の演説原稿やたすきは目障りなだけ。
あちこちに散らかした選挙戦の残骸を片付ける中、手書きの自己アピールがふと私の手を止めました。
息子らしいインパクトのある言葉が韻を踏んで並んだ構成の最後にきて、力が抜けるような結びの文句。
「こんなぼくに、どうぞ皆さんの清き一栗(いちくり)をお願いします」
この親にしてこの子あり。
間が抜けた一族には、人の上に立つよりも何かもっと他に適した役割があるに違いありません。
万が一、あのお祭り気分のまま当選してしまったら、先へ行ってきっと痛い目に遭っていたことでしょう。
しかし、その時はまたその時、たまにはこんな子が生徒会長でも面白かっただろうにと、なかなか心の切り替えができない私は、そんなことを想像しては1人ほくそ笑む、愚かな母親です。
タグ:生徒会長選
2009-04-05 15:31
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